【インタビュー】ジュンク堂書店池袋本店副店長 田口久美子氏に聞く『書店の価値と編集』

ジュンク堂書店池袋本店副店長 田口久美子氏

皆さんは今どのようにして書籍を購入しているだろうか。Amazonや楽天といったEC(イーコマース)サイトで、店舗に行かずに効率良く、そしてランキングやレコメンド(推薦)機能によって書籍を購入しているのではないだろうか?

利便性が向上やスマートフォンデバイスが普及に連れて、Amazonが世界中で席巻し、実際の店舗を訪れない事は疑いようのない事実だ。今回は、そういった現状の中で書店がどのように店舗にお客さんが来る価値を提供しているか、生きているのかをジュンク堂書店池袋本店副店長田口久美子氏に取材させていただいた。

ジュンク堂はリアル店舗を主な経営基盤としているがネットの書店との違いは

ー 書店に行く価値について

田口氏(以下田口): 書店はお客様に対して、こちらから本のラインナップ、陳列、接客など提案出来ることが多いんです。
インターネットの場合はディスプレイ幅によって見えるのが5-10本くらいだと思うのですが、書店の場合は本棚の幅や、見る人の視野によって広くなり、『装丁や手触り感』でついつい買ってしまったり、という”現実感”というものがある。それがインターネットでは得られない価値になっているのではないしょうか。

ー それを踏まえた書店の強みとは

田口: ジュンク堂の場合は、ホスピタリティの高さや手触り感、”現実感”が強みになっている。
また、書店で初めて椅子を置いた事は、これは社長のアイディアで。実は現場ではうーんと思い頭を悩ませることもあるんですよね (笑)。

ー ECサイトで書籍を購入されることについて

田口: 出版物は書籍と雑誌に分かれています。Amazonは書籍に関しては4分の1(25%)のシェアを占めている。私たちは、その比率もどんどん増えていくと予想しています。そのぐらいAmazonの力は脅威だと考えている。

Amazonはビジネス上、非常に上手い立ち回りをしていて、それを自社のサービス展開に生かしている。それは卸しの人間にはマネ出来ないという点にもどかしさはありますね。Amazonは圧倒的な存在になりつつあるし、日本の出版というか流通の人は凄く懸念しているのが正直なところかと思います。

インターネットでものを購入することについて

ー ここで編集への逆質問が。インターネットで物を購入するについて田口氏から質問

田口: ファッションなどが顕著だけど、インターネットで色々な物を購入する人は増えていますよね。ジュンク堂のスタッフにもインターネットで服を買っている人がよく居るみたいですが、どうですか?

Coolhomme編集部(以下編集): そうですね。増えていると思いますし、これからも増加していくのではないでしょうか。しかし、私個人のこだわりとしては、書籍同様『手触り感やフィット感』などを大切にしているので、あまり購入にはいたりませんね。

田口: それは本当にその物が好きだからですよね。書籍でも洋服でも。

ジュンク堂は書店として日本の消費のカタチの変化はどうなると思うか

田口: 百貨店も正直“厳しい”時代に来ていると思う。それこそ伊勢丹と三越が合併したころからでしょうか。例えば百貨店においてもインターネットを活用し始めたりだとか、ファッションブランドがECサイトを開いたり、インターネットはAmazonや楽天を筆頭に消費のカタチを変えていますよね。それらの比率ってどうなっていくんでしょうか。

編集: 一概には言えませんが、このまま行くと店舗での売上を越えるのではないでしょうか。インターネットでは、ZOZOTOWNやWEARなどといった新しいメディアが増えて来ていて、ブランドは百貨店に入らずとも売ることが出来るようになってきました。

田口: でも、そうなると製造から販売まで一環している所なら出来るでしょうが、書籍は難しいかもしれない。なぜなら、私たちは製造に携わることがどうしても不可能だからです。本というのは、製造、流通、書店が異なる力を作っているものなんです。そう成った時の書店の価値こそ考えるべきで、私たちはそれが接客、手触り感、本の並び方、全て含めて”臨場感”だと思っています。

毎日新鮮でキュレーションされた情報を届けることが書店の価値

ー 書店に来てリアル店舗で購入する価値が臨場感だとわかりましたが、その際にどういう企画、配置がウケるのか。

田口: 書店でもインターネット同様、ランキングが一番売れる。その中でもやっぱり、一番人気の物が一番売れるんです。だけど、本屋大賞で選ばれた書籍は、芥川賞などの書籍よりも売れる。それは、全国の書店の人が1-10位までを決めていてランキング形式にしているからかもしれないですが、1位だけしか売れない。

そういう中で、私たちが出来る事は『毎日、棚を創る事』と『お客様に情報を届けること』なんですよね。

ー 世界から見る日本の出版物について

田口: 日本の現状についての話が多いですが、実は日本は世界で見ても出版や流通が優れている国なんです。東欧、アメリカ、と比べても幅があるし、市場とお客さんが多い。

例えば、東南アジアなどに行くと分かり易いですが、ジュンク堂規模のビルを持っている所なんてない。ビルを建てるという意味ではなく、それだけの書籍が流通していて、種類・総量が多いからこそ、ビルが成り立っているということ。それが日本が世界に言える出版の凄さだと思っています。

例えば、タイの本屋に行くと英語の書籍の流通が多いけど、その国の言葉で書かれた小説や、思考された哲学の書籍などが非常に少ないんですよね。そういう意味では日本は本当に東南アジアの端にあるのに。
ある意味では、わたしはお客さんがここに来たら、『日本の全てがわかるという状態』を創っている。科学や最近のビジネス、経済、など幅広く取り揃えているのがジュンク堂なんです。

ー 出版は確実に売上が落ちている。その状況を全体でどう打破するか

田口: インターネット、Amazonの影響もあるかもしれないが、売上は確かに落ちているのが現状です。インターネットが効率化させている側面がどこかにはあるかもしれないが、産業として縮小している部分もあるので危惧はしていますね。もちろん、時代に合わせてジュンク堂でもインターネットでの販売を行っていますが、私たちの主力は『棚を創る事』。時代に流されず、かつ取り残されずにバランスを取りながらより良い書店作りに精進したいですね。

最後に書店においての『編集』とは

編集: 1階に新著や文庫、特集コーナーがあるが、どういう視点で作成しているのか。

田口: 書店はどこもそうかもしれないですが、フロア毎で今流行っているもの、日本は四季があるので、四季を中心にしたもの、社会で起こっているものセグメントして配置しています。

ただ一番は新刊が出る時に合わせて創ることが多いですね。例えば、村上春樹がノーベル賞を受賞するかもしれない! という時に村上春樹作品を置いてみるとか。何かのトピックス、総合的に判断しながらイベント・特集を創っています。

それを本で構成すること、どんなジャンルを入れるか、そしてそれがどれだけお客さんに見てもらえるかが楽しみ。それこそが、書店の私たちができる“編集”だと思いますね。洋服なんかもそうですよね。

編集後記

筆者の大学時代には確かな闇期があった。その闇期の側にはずっとジュンク堂書店池袋本店があったのだ。当時板橋にあったマンションから、わざわざ池袋まで電車で出掛け、その都度なけなしのお金から1万数千円分、毎回購入していた。その時に様々なジャンルの書籍を読んでいたからこそ、様々な事に対しての興味が湯水の様に湧き、今の自分の背中を支えてくれている。だから、筆者にとっては大切な場所であったし、それと同時に当時の苦い記憶がフラッシュバックされ、当時の鬱々としていた自分が重なり、あまり積極的には行きたくない場所となっていた。

しかし、今回のインタビューは出版・書店等が業界的に一部衰退しているように見え、書店の価値やそれを並べるいわば”編集”についての見解に関しては、現場の当事者に聞いてみるのが早いと考え、依頼という行動に至ったのだ(結果、心良く引き受けていただけた)。

書店に行って購入する価値は『セレンディピティ(偶然の出会い)』があるからなのではないだろうか。装丁が格好いいだったり、手触りや匂い、歩いている時に目に触れるなど、感情や印象を読む前から得られる様な書籍には、書店まで足を運ばなければ出会えないのだ。

田口氏は、これまでのジュンク堂での経験と知識から幅広い視点で話をしてくれた。書店や出版というビジネス・産業、日本の文化を総合的に考えさせられる機会になり、そういう文化は私たちのようなネットメディアが共生して残して行かなければいけないのだろう。

インタビュー・カメラ・編集 Makoto Tanaka

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