大躍進を遂げた『米津玄師』。街を背に理想郷を目指した彼が、その先に見つけたもの。

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かねてより才気溢れる楽曲センスで注目されていた『米津玄師』の勢いが止まらない。2015年10月に発売された3rdアルバム、「Bremen」はオリコンチャート1位、iTunes週間アルバムランキング1位、Bilboard JAPAN HOT Albumチャート1位と三冠を達成、TBS「第57回 輝く!日本レコード大賞」優秀アルバム賞まで受賞した。

この「Bremen」は、広くリスナーの心に届く温かな音で満ちている。それは以前までの楽曲に含まれていた不穏な雰囲気ではなく、寄り添ってくれる優しさがあるからだ。米津玄師のディスコグラフィーと共に、その変化について紹介したい。

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出典:reissuerecords.net/

『ハチ』から『米津玄師』へ。 / 「diorama」

OFFICIAL ORANGE

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2009年、彼は『ハチ』名義でニコニコ動画へVOCALOIDによるオリジナル曲の投稿を始めた。独特な世界観がある楽曲、自らイラストも手掛けている動画は当時から多くのファンを夢中にさせている。

パンダヒーロー / ハチ

「ヒーローの曲」と本人がコメントした「パンダヒーロー」は、投稿されてから40日ほどで再生数100万回を達成。写真とポップなイラストが混じり合う動画、サビの中毒性が印象的だ。

投稿したオリジナル楽曲が数多く殿堂入り(再生数が100万回を達成すること)し、ボカロPとして高い支持と知名度を得ていた彼であったが、2012年に本名の『米津玄師』名義で1stアルバム「diorama」をリリースした。

「VOCALOIDを隠れ蓑にしたくない」という考えから、収録曲全てにおいて自身の声で歌っている。『ハチ』の名を手放し、『米津玄師』として製作した初めてのアルバムのコンセプトは「街」だ。

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ゴーゴー幽霊船 / 米津玄師

漫画の吹き出しを思わせる歌詞の表現、細かい線で書き込まれたイラストから動画の完成度の高さに驚く。また、登場するキャラクターのコミカルなポーズがどこか不思議な雰囲気を持っている。

この『diorama』の楽曲はあえて「違和感のある音=不協和音」を楽曲の随所に忍ばせているため、そこから生まれる中毒性が強い。ハチとして活動していた頃の、一度聴いたら癖になってしまう点が根強く残っているように感じる。

呪いを解くため、旅立つ僕ら。 / 「YANKEE」

翌年の2013年には1stシングル「サンタマリア」でメジャーソロデビューを果たした。重厚なピアノとストリングスの音色が絡み合う、美しい楽曲だ。

サンタマリア / 米津玄師

この楽曲が収録された2ndアルバムのタイトルは、「移民」の意味を持つ「YANKEE」。街をコンセプトにした前作から、より血の通った感触がある。
難解さやアクの強さは影をひそめ、誰かとの繋がりを丁寧に描かれているように見えた。

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CMのタイアップ曲として多くの人が耳にしたであろう、「アイネクライネ」は女性の視点でいつか来る別れを不安に感じながらも、ストレートな「あなた」への思いを綴っていた。

アイネクライネ / 米津玄師

一方で、「サンタマリア」と「リビングデッド・ユース」の歌詞には共通して「呪い」という言葉が使われている。

“今呪いにかけられたままふたりで

いくつも嘘をついて歩いていくのだろうか”

“一緒にいこう あの光の方へ”

サンタマリア / 米津玄師

“さあ 呪われたまま笑い疲れた この現世をまたどこへ行こう”

リビングデッド・ユース / 米津玄師

「呪い」から自由になることを願い、1人ではなく、誰かの手を取って歩き出そうとする強さ。そんな強さがこのアルバムには込められている。
特に「サンタマリア」でバンドスタイルに回帰していることからも「diorama」からの脱却、誰かと共に歩くことに比重が傾いているのが分かる。

ドーナツホール / 米津玄師

「少年漫画っぽいものを目指しました」と本人が発言しているように、動画にはボーイッシュな服を着たVOCALOIDの女性キャラクターたちが次々と登場する。普段とは違う彼女たちの姿が新鮮だ。

以前までは「ボカロPとして作った曲をカバーしてアルバムにするのはどうだ」という提案に対して「断固としてやりたくなかった」という米津玄師であったが、この「ドーナツホール」は自身でも歌いたいと思っていたと発言している。

ハチと米津玄師としての境界線が曖昧になった結果、このような心境の変化が起こったのだろう。『ハチ』であったインターネットの世界から、『米津玄師』であるリアルの世界へと旅立ったことから、「YANKEE」というアルバムタイトルはまた大きな意味を持つ。

そしてこの頃、初めてのライブが開催された。チケットの倍率が約20倍であったことから、ファンにとって彼のライブ活動がどれだけ待ち望まれていたかが伺える。

たとえ理想郷に辿り着けなくとも。 / 「Bremen」

Bremen (初回限定盤)(CD+DVD) (映像盤)

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2015年、米津玄師はCMタイアップ曲にもなったシングル、「Flowerwall」をリリース。その後、初となる全国七大都市ツアーの開催や野外フェスへの出演と、目まぐるしい活躍を見せていった。

Flowerwall / 米津玄師

各地で行われた夏フェスでは、ハンドマイクを手にフロアタムを叩くパフォーマンスで観客を驚かせた。そんなパフォーマンスを見せた「アンビリーバーズ」で彼は、信じる、信じないではなく信じない者たちとして生きていこうと誓う。

アンビリーバーズ / 米津玄師

“今は信じない 残酷な結末なんて

僕らアンビリーバーズ 何度でも這い上がって行く”

アンビリーバーズ / 米津玄師

そんなアンビリーバーズを筆頭に、「Bremen」の楽曲からはどんな逆境に置かれていてもその場所からどこかに旅立とうとする決意が見られる。
「YANKEE」でも同様の表現が用いられていたが、今作は明確な目的地について示されている。

“ヘッドライトに押し出されて 僕らは歩いたハイウェイの上を

この道の先を祈っていた シャングリラを夢見ていた”

アンビリーバーズ / 米津玄師

“みんなが歌った あの歌に 出てきた国に

僕らは行くよ 声を上げて 振り向かないよ”

ウィルオウィスプ / 米津玄師

アルバム名に「Bremen」とあったように、この「ウィルオウィスプ」の歌詞にも「犬も猫も鶏も引き連れ街を抜け出したんだ」とあり、グリム童話の「ブレーメンの音楽隊」と結びつけることができる。

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出典:fc2.com/

ブレーメンの音楽隊は、現状に疲れてしまい、逃げ出してきた動物たちはブレーメンで音楽隊に入ろうと考える。道中、休憩のため立ち寄った森で動物たちは、そこにあった小屋でご馳走を食べる泥棒たちを見つける。動物たちは力を合わせて泥棒たちを追い出し、その小屋でずっと仲良く暮らしたというストーリーだ。

表題と異なり、動物たちはブレーメンという理想郷を夢見て旅立つも、結局辿り着きはしなかった。それでも虐げられた現状を抜け出そうと決め、得た仲間と共に別の形で幸せを摑み取る。どんな悩みも苦しみも存在しない理想郷なんて、実際は存在しない。しかし、向かおうとする決意にこそ意味がある。

“いつでもここにおいでよね”

ホープランド / 米津玄師

「ホープランド」と、その理想郷を言い得た楽曲で米津玄師はこう歌う。しかし、この「ここ」は一体どこなのだろうか。その答えは、最後の楽曲「Blue Jasmine」にある。

“これから僕らはどこへ行こう? ねえダーリン何処だろうときっと

となりにあなたがいるなら それだけで特別なんだ

キスをして笑い合って 悪戯みたいに生きていこう

全て失くしてもなくならないものを見つけたんだ”

Blue Jasmine / 米津玄師

「あなた」の隣が、ありもしない理想郷よりもずっと身近にある幸せだったのだ。ここから私は、童話の「青い鳥」を思い出した。

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出典:blogs.yahoo.co.jp/

兄妹が青い鳥を探して動物や妖精たちと旅をするも、青い鳥は結局見つけられなかった。失望する2人だったが、自分たちの飼っていた鳥こそ青い鳥であったと知る。結局、幸せは気付かないだけで本当は身近なところにある。その教訓が、「Blue Jasmine」の歌詞にも込められているのではないだろうか。

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出典:reissuerecords.net/

米津玄師は、『ハチ』ではなく『米津玄師』として歌うことを決めた。「diorama」で架空の街とそこに生まれる物語を作り出し、「YANKEE」では生き続けることで、その身に背負う呪いを解こうと、今まで安住の地であった街を背に新たな場所へ歩き出す。
いつしかその目的地として「Bremen」を夢見るも、その道中で幸せは何気ない普通の日常にあったことを知る。

ハチとして活動を始めてから、「Bremen」の発売まではおよそ6年。この6年で、彼の音楽は変わった。
理想郷は無くとも、これから彼は私たちをまた新たな場所へ連れて行ってくれるはずだ。そこがどこであっても、彼がその場所で奏でる音楽はいつだって私たちの味方であろう。

来年1月より、「米津玄師 2016 TOUR/音楽隊」がスタートする。地元、徳島県での公演などを含め10都市で開催される。彼の生きる音楽から目が離せない。

Live Schedule

米津玄師 2016 TOUR/音楽隊

2016年1月9日(土)  Zepp DiverCity

2016年1月12日(火) 徳島club GRINDHOUSE

2016年1月13日(水) 高松オリーブホール

2016年1月15日(金) Zepp Namba

2016年1月16日(土) Zepp Namba

2016年1月22日(金) Zepp Nagoya

2016年1月24日(日) 新潟LOTS

2016年1月26日(火) 仙台Rensa

2016年1月30日(土) Zepp Fukuoka

2016年1月31日(日) BLUE LIVE広島

2016年2月3日(水) Zepp Sapporo

2016年2月6日(土) Zepp Tokyo

2016年2月11日(木・祝) 豊洲PIT:追加公演

2016年2月12日(金) 豊洲PIT :追加公演

チケット一般発売日

1月9日~2月6日公演(追加公演を除く):2015年12月5日(土)

2月11日~2月12日公演(追加公演のみ):2016年1月10日(土)

関連リンク

米津玄師 Official Site:http://reissuerecords.net

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