世界を魅了した美しき天才、グザヴィエ・ドラン監督・主演『トム・アット・ザ・ファーム』

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2013-8290849 Canada INC. (une filiale de MIFILIFIMS Inc.) MK2 FILMS / ARTE
France Cinema Clara Palardy

『わたしはロランス』の日本公開で一気に映画ファンの注目を集め、第 67 回カンヌ国際映
画祭では最新作の『Mommy(原題)』が J.L.ゴダールの作品と共にコンペティション部門の
審査員特別賞に選ばれた弱冠 25 歳のグザヴィエ・ドランの監督、主演作品。

恋人のギョームを亡くし悲しみの中にいるトムは、葬儀に出席するために彼の故郷へ向か
うが…。隠された過去、罪悪感と暴力、危ういバランスで保たれる関係、だれも訪れることのない閉塞的な土地で静かに狂っていく日常。

10年に渡るメロドラマ『わたしはロランス』とは打って変わった本作は、ケベック在住の劇作家ミシェル=マルク・ブシャールの同名戯曲の映画化で、カナダ・ケベック州の雄大な田園地帯を舞台に一瞬たりとも目を離すことの
できないテンションで描き切る、息の詰まるような愛のサイコサスペンス。

『トム・アット・ザ・ファーム』レビュー

舞台は、カナダの一面畑の田舎町。でもどことなく、退廃的な空気感が流れる。
恋人のギヨームを失い、急遽葬儀に出席するために恋人の故郷にやってきた主人公のトム(グザヴィエ・ドラン)。
そこでは、ギヨームの母・アガットと兄・フランシスが暮らしている。

序盤こそすぐには分からないが、トムの恋人であった、ギヨームは男性だということ、つまり同性愛とそれに伴う感情と事象が、亡くなったギヨームを中心に物語が展開される。

ギヨームの兄フランシスは、暗い過去がある。暴力的で、そういう自分が嫌いであるからなのか、寂しさからなのか束縛をする性格。
トムは、殴り合いや首を絞められて、殺されそうになったかと思えば、牛舎の中でダンスを一緒に踊ったりと感情や考えが二転三転する。

トムの事が心配になって迎えに来たサラは、トムに痣があるから一緒に帰るようにいうシーンが、この映画の全てを現している。フランシスに殺されそうになっても、”農場に残る、牛がいる” と言って残ることを選択すること。人間は時に、合理的をすることが出来なくなる。
暴力的なフランシスに、どこか共感と縛られてしまっているその精神はすでに”異常” な状態とも言える。恋人の死や極限状態が、強迫観念を産み、恐らくフランシスに好意的な感情を抱いていたのかもしれないのかとも考えさせられる。

トムは、近くのバーでフランシスの過去の暴力的な話を聞くと、次の日誰もいない家を見て、見計らって逃げ出し、とあるガソリンスタンドに来るのだが、最後にそこで見たものはー。

総じて登場人物が暗いのが特徴的で、ここまでどこか寂しげな空気感の流れる映画も珍しい。
人間の闇の部分に焦点を当て、これでもかという程に浮き彫りにしていて、感情のリズムの速さに時折置いて行かれそうになるシーンが多い。

映画全編通して使用されているクラシック調の音楽もどこか寂しげで、シリアスなシーンではバイオリンが速いテンポで弾かれる。音楽、映像全てが繰り出す緩急に感情を揺さぶられる。

『グザヴィエ・ドラン』という天才がしかける作品を観終えたあとは、人や物事に対して寛容的になれそうだ。
“考える余白のある” 今年最も心を揺さぶられる映画。ぜひ劇場に足を運んでみては。

Information

2014年10月25日(土)
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク、 キネカ大森、テアトル梅田ほか、全国順次公開
2013年/カナダ・フランス/100 分/フランス語
公式WEB:http://www.uplink.co.jp/tom/

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